エコロジー団地  カッセル市にある緑の住宅


 第一期と第二期の境目。住宅は第二期。

エコロジー団地計画

 1980年に入ると、カッセル市では過疎化対策の一環として、低所得の若年層や、大人数家族にも住宅を提供しようとした、「ユンゲファミリエ(若い家族)」と呼ばれる住宅建設計画が進められた。

 この計画は、市の所有地を安く提供することで、公共的な地価設定を行い、それと同時に住宅にも一定の基準を設けて、住宅の質を確保するというのもであった。



 第二期の家。半地下に入り口がある。

 具体的な計画や構想のないカッセル市が、一般から案を募集したところ、エコロジー団地のコンセプトで応えたのが、建築家ヘッガー夫妻(HHS設計事務所)のグループだった。

 1981年に、HHSによって団地建設の第一次案が提出される。市は興味を持つものの、従来にない建築方法だったため、建築基準条例・都市計画条例等の市が持っていた基準に当てはめることができず、再考を要請した。

 1982年3月、HHSはエコロジー団地計画の趣旨に興味を持つクライアントを集め、ワーキング・グループ「カッセル・エコロジー団地」を結成。 この後、市の都市計画局と共同で、エコロジー団地実現に向け法律、規制面の設備、組織体制、財政問題に関する具体的な詰めが行われていく。



 整然とも鬱蒼ともしない、絶妙に手の入った庭。

 こうして、1984年、8戸からなる第一期工事が着工され、翌85年夏から秋にかけて完成。1987年には第二期工事が開始され、1989に7戸完成。これまではHHS設計事務所の手によるものだったが、第三期は建売り住宅形式で、別の設計家によって建設された。

エコロジー団地の特徴

 エコロジー団地の基本概念は、1.自然・地質条件、2.自然環境と人間の健康、3.経費・エネルギーの節約、この三点に要約されるだろう。即ち、地球や地域環境に低負荷な「エコロジー」と、人体に低負荷な「バウビオロギー(建築生物学)」である。



 第三期。車が2台並べる道幅。

この団地は、以下のような基本的な方針で建てられている。

●屋根に土を載せ、野草を生やし、断熱性能を高めるとともに景観緑化に寄与する。

●車寄せ、駐車場および道路の表面は、非透水性の舗装を絶対に施さない

●蔓性の植物を建物に這わせ、夏季の遮熱を図る。

●壁体に粘土を使用し、その物性によって湿度と温度の自然な調整を図る。


●建物の向きや位置は太陽の方向に留意し、南側のファザードには極力影ができないようにする。また、十分な蓄熱効果のある温室を設けるなどして、パッシブなソーラーエネルギーの利用を図る。
温室は、ソーラーコレクターおよび蓄熱体として利用し、そこであらかじめ暖められた暖気を居室に導くことによって省エネルギー化を図る。

●人体の健康に害を及ぼすような揮発性、放射性のある建築材料を用いない。

●北、東、西側に面する窓面積を極力減らす一方、南、南西、南東側の開口を大きくとることで省エネルギー化を図る。

●壁体と屋根の遮断性能を高め、省エネルギー化を高める。

●トイレ用の水や植栽の水遣りには雨水を利用し、上水消費の低減を図る。



 第一期住宅用駐車場。

エコロジー団地を散歩してみて

 さて、資料を睨んで、難しい文献を切り張りするのにも疲れたので、実際にエコロジー団地を見た感想を、書いていきます。

 エコロジー団地は、カッセル市内からは少し離れた閑静な所にあります。しかし、静かな代償として、路面電車は走ってないし、バスで行くにも不便な場所。折角、環境を考えた生活なのに、車は捨てられそうにない環境です。実際にどの家庭も車は所有している感じだった。おまけに、バイク所有率も高い。冬の長いドイツでは、バイクに実用価値がなく、完全に趣味。趣味にお金を注ぎ込む事のできるひと達が住んでいるなあと、実感できる車庫風景だった。



 第一期の道。車は入れず、細かな砂利が敷き詰められている。

 まずは、第一期を見てみる。 一本の道の両脇に8戸(5棟)並んでいる。家まで車では入らず、団地入り口にある、共同の駐車場に停める。道はもちろんアスファルトではなく、砂。細かい砂利で覆っていて、歩いていて気持ちいい。こぢんまりとした感じや、緑の多さに、なんとなく懐かしい香りがする。初めてなのに、落ち着いてしまう。

 家に続く小道も、趣があっていい。ついつい入ってしまいそうになる。小鳥の多さも街の比ではなく、なんと気持ちのいい町並みだろう。



 旧ミンケ邸。ドーム状の屋根をもつ八角形の集まり。

 屋根に草の生えた駐車場を越えて直ぐ左には、八角形の集まった旧ミンケ邸がある。ミンケ氏は、大学で手作り風土建築を教える建築家。8方向に増殖(増築)できる有機的な設計で、現在三人目の住人が2ブロック増殖させた家に住んでいる。

 今ミンケ氏は、この団地に新しく建てた家に住んでいるのだけど、これが地下基地のようで凄い。殆ど地中に埋まっていて、どうなっているのか分からない。光取り用のドーム形窓や、煙突が丘から飛び出している。興味深い家だ。



 第一期に建てられた家への入り口。建設費削減のため2戸で1棟。

 壁の基本構造が、木と土になっていて、外から見ると木の板が張られている。北の窓は小さく、南の窓は大きく、悪くするとマイナス20度になるカッセルの冬を、どうにか省エネルギーで乗り切られるよう、工夫されている。20%は暖房費を削減できるらしい。旧ミンケ邸は40%削減できるというから、凄い。住んでいるひとに聞くと、実際はもっと少なくなっているようです。

全長で50mなさそうな第一期を抜けると、砂の道から石畳風の道に変わり、車が家の前までこられる第二期建設区域に入る。



 車が入れるようになった第二期の道。奥は第一期。

 第一期に続いて、HHS建設事務所が手掛けているので、第一期から歩いてきても、そんなに違和感はないが、より一層、現代の雰囲気がでてきた。車が入れるようになったり、垣根を作ったり、地下貯蔵庫を採用したりと、住民の要望を取り入れたので、見慣れた住宅街に近づいてきている。

 ここには、エコロジー団地の中心メンバーの一人として関わった、建築家の岩村和夫氏の家もある。岩村氏は、建築や町づくりという立場から、生物学や生態学を基本にした環境共生という考え方を広い眼を持って実戦されています。勝手ながら、頑張って頂きたいと、思わずにはいられません。



 裏庭の制作模様。段々畑にするのかな。

 この団地は、クライネ・ガルテンと呼ばれる週末菜園地域と、小高い山の間にあるので、静かで緑が濃い。山は珍しく雑木林になっており、チョロチョロと小川も流れている。そんな小川に向かって広がる裏庭にまわると、気持ちの良い庭が見える。木製のブランコがあったり、小さな菜園があったりと、とても綺麗。

 まだ建設中の所もあったが、個人でコツコツ作っているようだった。どこでもそうだけど、みんな自分で自分の家のメンテナンスをしている。家庭や自宅、地域に割く、時間やお金、こころの余裕があるのは、羨ましい限りです。



 ミンケ邸。青い部分が車庫の屋根。その奥に天窓が見える。

 第二期を抜けると、第三期地域にはいる。ミンケ邸の地下基地があるところだけど、他の家は、建て売り形式であり、コンセプトも変わり、設計者も変わっている。一見すると普通の高級住宅街に見える。しかし、屋根上の草や、木の壁などは残っているので、緑は多く、色々なモノとの妥協や折り合いが見える。

 全体を通して、このエコロジ−団地は高級住宅街になっている。当初のユンゲ・ファミリエのコンセプトはどうなったのか!?と思わずにはいられないが、ひとと地球に優しい団地として、成功して欲しい。ただ、どうしてもコストがかかるため、高級住宅街のイメージを拭うことは難しそうだ。



 第三期。屋根の草以外は普通の高級住宅に見える。

 車、冷暖房、電気製品、便利なモノは得てして環境を破壊する。しかし、この便利さを一度味わったら最後、なかなか抜けられない。都会などでは、地下基地のような家を造るわけにもいかず、地域にあった家作りを考えなくてはいけないのだろう。この団地の第一期から第三期まで見てみると、人間のエゴや信念、理想と苦労、努力と妥協が垣間見られる。

 第一期では、自然に溶け込み、地球と一体となって生活している感じがする。第二期だと、人間がある程度便利に過ごせるようにして、なんとか自然と持ちつ持たれつ長く付き合っていける感じがした。第三期になると、エコロジーというブランドが優先されつつあって、エリートのステイタス的感覚が強い。それでも一般の家よりは環境、人間に優しいのだから、悪くない。



 屋根にも草が生え、緑が本当に多い。

 昔は自然にできていたことが、今では強い信念を持っていないとできないようになっている。ヨハネスブルクでの環境開発サミットや、京都議定書の難航は、全て人間の国家的エゴにあると思う。そんな主張はつまらない事だと思うけど、貧しい国は文字通り死にものぐるいだろうし、経済大国は更なる成長を求めないと、国が潰れるのだろう。

 だからといって、公害が出るような成長をしたり、環境改善の努力をしようともしないのは愚行だと思う。地球環境を考えた場合、あっちもこっちも問題山積みだけど、このままでは地球が壊れることは確実。それなのに「何もしない」では、孫の代で終わる。更に「ちょっとだけ」でも同じこと。


 いろいろな方面から、地球を守る真剣な行動が急務だと思う。
 毎年異常気象が続いているけど、全て人害だと思う。災害でさえ、人間が引き起こしている。エコロジー団地を考えると、そんなあれこれの問題解決の糸口が光る。


エコロジー団地所在地
 Am Wasserturm 34128 KASSEL
 Hbf(中央駅)から約3km。

 Hbfの北500mの所を東西に走る Wolfhanger Str.を西へ2km。三連線路をくぐって二本目の Frasen Weg を北へ1km。週末菜園が左に広がり、終わったところに入り口がある。三台分ぐらいの駐車スペースあり。車で来て、カッセルの詳細地図があるなら、Schwedes str. 奥に路駐して、裏から回り込んだ方が楽かも。
バスでの行き方など、市庁舎横にあるInformationで尋ねると詳しく教えてくれると思います。

 最後に、ここはモデル住宅ではなく、実際の生活の場であることをお忘れ無く。



top

写真館TOPに戻る

Copyright (C) 2002 Ippei Kubo All Rights Reserved.
inserted by FC2 system