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 数年前、NHK朝の連ドラ「ほんまもん」で、初めて「熊野」を見た。大学生の頃、和歌山に5年も住んでいながら知らなかったのが不思議というかなんというか…。朝8時15分に見る、熊野の自然は眠気も覚ます壮大さだった。

 その頃は、ドイツに住んでいて、一時帰国した時にやっていたのが「ほんまもん」だった。日本に飢えている時期だけに、さらに日本の自然が頭に貼り付いて離れなくなってしまった。そして、かたくなに決心したのだ、絶対に行こうと。


「滝尻王子」

 ミーハーな理由で熊野を目指すことになったけど、いったい熊野には何があるのだ?よく分からない。朝の連ドラ「ほんまもん」でも、何か言ってた気がする。頼りない記憶力に引っ掛かっていたのが、「熊野古道」だ。

 熊野古道とは、熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)に詣でるための道で、今でも昔のままの状態で残ってる所が多いらしい。しかも、流行っていたのが平安中期から江戸時代にかけてという古さ!すでに気分は、岡っ引き。

 来世の幸せを神々に託すぞぉ〜などと意気込むことはないけれど、八百万(やおよろず)の神々を崇める気持ちは、モリモリっとあるので、熊野詣でをさせて貰いましょう。さらに、熊野詣では、上皇から庶民まで、性別も問わず幅広く人気があったらしい、良いではないか!身分など関係なく、大和魂に響く威力。しかと拝見させていただきます。


「野中の一方杉」横の茶屋

 熊野古道に沿って、点々とあるのが、熊野九十九王子。大阪の淀川河口付近から始まり、ずずず〜っと那智まで95社ある。長い長い道中の安全を祈ったりしていたのでしょう。しかし、これを全部巡拝していくわけにはいかないので、「勝手に選抜王子」で許して貰うことにした。

 熊野古道と言えば中辺路でしょ〜!っと昨日まで何も知らなかったくせに、したり顔でスタートを中辺路の滝尻王子に決定。地図を見れば「熊野古道館」なるものもある。熊野古道に関する情報も集められそうだ。しかし、この出発点は、あながち的外れではかった。滝尻王子は、数ある王子の中でも、重要視された王子のひとつであり、熊野の霊域の入り口とされているらしい。完璧である。

 滝尻王子横の川で、みそぎ(顔を洗っただけ)を済まし、いざ熊野詣でへ!!


「熊野川町」

 さてさて、熊野古道出発!ということで、滝尻王子奥の山へ分け入っていく。イキナリ結構な上り坂。というか、完璧な山登り…。おまけに驚くような晴天っぷり。三歩で汗がにじむような暑さ。山登りなどすれば、もう汗がぼとぼとぼとぼと…。膝がカクカクなってきたところで、ネズ王子に到着。ふぅ〜。

 始まったばかりでこの有り様。いやはや先が思いやられる。しかし、そこは選抜王子、そそくさとネズ王子をあとにして、今登ってきた道を引き返す。へなちょこな僕は、車で移動しながら、面白そうな王子や名所を見て回ることにしているのだ。御利益も八割減か。


「牛馬童子像」

 殆どの王子は、王子跡ってことで、こぢんまりとした石碑だけになってしまってる。社があるところでも、至極小さなものであり、豪華絢爛とはかけ離れている。それ故に、抵抗無く溶け込んで来るような落ち着いた安心感がある。

車で行けるといっても、王子を見ようとすると、1時間以上歩いたりすることも多々あり、静かな山道をサクサクと進むことになる。「蟻の熊野詣で」と言われた、賑わう面影は見ることができないが、踏み締められた路から、ほんわりと歴史が湧き出してくる。

 しかし、本当に歩く人が少ない。山道の中で出会ったのは、近所の散歩しているおじさんただひとりで、チョット奥まで入り込んだ路では、ひとの気配無し。日暮れ近くに、調子に乗ってグングン歩いていると、ジワジワと暗くなり、一気に闇に包まれることになる。こうなってしまうと、非常に寂しく不安な気持ちが立ち込める。生い茂る木々の向こうから、足の透けた飛脚が、す〜〜〜っと走って来そうな雰囲気。ドキドキする。


「大門王子」

 そんな静かな熊野古道も、熊野三山ともなると事態は一変する。熊野本宮大社へ行くと、観光バスがエッサホイサと行き交い、パシャパシャとシャッターが切られる。社もデデデン!っと鎮座してして、デカイ。デカイからと言って、今まで見てきた熊野の雰囲気から外れない事は凄いし、格好いい。木の渋い色が荘厳さを揺るぎないものにしている。

 新宮の熊野速玉大社は、明治に炎上し再建されたからかどうか分からないが、チョット派手目。しかし、朱と漆喰の白が美しいことは確か。以外と参拝者が少ないのも気持ちいい。一方、熊野那智大社ともなると、大騒ぎである。133mという日本一の高さをほこる「那智の滝」を始め、熊野山伏の修験道場「青岸渡寺」などがあり、一大観光要所になっている。駐車場が軒並み500円均一にもなるってことだ。僕は殆どない無料の駐車場に停められてホッとした。テントに泊まりながらの旅人にとって、500円とは一日の食費に近い大金なり。危ない危ない。


「円座石(わろうだいし)」

 さて、ズラズラ〜っと見てきた熊野古道だけど、九十九王子や熊野三山以外にも、楽しい所が多かった。なんとなく微笑ましい牛馬童子像や、熊野の神々が座って御茶を飲んだという円座石など、アクセント的名所に加えて、大銀杏に野中の一方杉、名水の湧き出る野中の清水など、自然の名所も多い。山は深く、川も申し分なくきらめいている。四国では味わえない、紀伊半島独特の自然を満喫することができて、非常に満足。

 今回の旅では、日本人そして大和魂を創り上げてきた大切な時代に、そっと入り込んで行ったような錯覚に捕らわれる事が多かった。自然崇拝、結構じゃないか。山、川、大木、大石、あらゆるモノに神が宿る。なんだかんだ言っても、日本人はそうやって生きていくのが自然な感じがしてならない。自然には敵いませんよ。



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